現在、多くの企業が経営の現地化を志向されていることと思います。特に近年は、タイ市場の成熟化や現法の機能の高度化という流れ、また現地社員の世代交代が進む中で、現法のあり方の変革の時期でもあり、次世代を任せる人材の確保は将来を左右する経営課題となっています。

Personnel 1907 (5)-1-001 業界特性や本社の経営方針、またタイ法人の歴史によって時間軸や現地化する領域の幅は異なりますが、下記図1のように、現地社員に現在のオペレーションを回す実務(領域1)に加えて、より高度な役割を期待されている企業が多いのではないでしょうか。

 人材の流動性の高さに悩みつつも、日本企業の伝統的な強みであるOJTによって、領域2を任せる人材の育成は進んでいることと思います。しかし今、現法の経営陣や日本本社が必要としているのは、領域3.4を任せられる現地人材の育成・確保でしょう。

 ところが、「未来の競争環境の中で勝ち続けるための戦略を描いて、推進できる人材がいない」、あるいは「上の世代が詰まっていて中堅・若手に機会を与えられていない」という企業が多いように感じています。

 急速に複雑さを増すタイ・アジア地域の中でも、事業を成長させながら、それを動かす現地人材の輩出に成功している企業はあります。

 こういうと「もともと素晴らしい人材がいたからでしょう」という声が聞こえてきそうですが、ある特定の個人がいつまでも活躍しつづけられるわけではありません。そのような企業では、人材が伸びる経験を得られる仕組みを、社内に持っています。

 人材を伸ばす経験とは、
 1. 経営幹部としての役割と期待を自覚し、覚悟を醸成する
 2. 経営課題を自ら設定する
 3. 自分で意思決定し、実際にやってみることで、失敗と成功体験を積む

 これらはオペレーション実務を担うだけでは、機会がありません。また、経験を学びとして定着させるために必要なリフレクションや適切なフィードバックの機会も、現状では自然発生的にはないでしょう。人材が育つのを待つのでなく、開発していくために、自社としての強い信念が必要となります。
 会社の規模は問わず、経営が本気で人材輩出に取り組んでいる会社は押しなべて幹部候補者のエンゲージメントも高く、さらに良い会社にするためにリーダーシップを発揮しようとする好循環が回っているように見えます。

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図2:幹部育成×事業開発ワークショップ

 ある素材メーカーでは、事業構造の転換点を迎え、タイ国内拠点からミドルマネージャーを選抜して未来の勝ち筋を考えるワークショップを実施しています(図2)。これまで各販社・工場で育ってきた人材が自社を取り巻く環境を直視し、中長期の経営課題を設定して、培ってきた強みをもとに解決策を提言する取り組みです。トップから自社の歴史と理念、問題意識、ミドル層への期待を直接お伝えいただき、きれいな解を出すのでなく、自分事として徹底的に考え抜くことを求めます。その経験が、幹部としての自覚を醸成していくことにつながります。また、各拠点に所属する経営候補人材を把握する機会ともなっています。そしてこのワークショップの参加者はその後、検討したプランの検証・実行に取り組み、実経験を積んでいくことになります。

 人材育成は経験70%、薫陶20%、研修10%と言われます。ワークショップで知識習得、薫陶、ネットワーク、そして経営の疑似体験を経て、適切な人材にチャレンジの機会を与え、継続的にフォローして自社の理念に沿った判断基準を浸透させていくこと。これを本社任せでなく、タイからも段階的に積み重ねていくことが経営の現地化への近道と言えるでしょう。タイ人社員がイキイキと働き、日本企業をさらに力強くリードする日を願ってやみません。

CELM ASIA Pte. Ltd. ( 人事制度・人材組織開発コンサルティング)
Thailand Country Manager
佐藤陽介(連絡先:y-sato@celm-asia.com)